お酒ってどんなもの?
エチルアルコール(エタノール)を含む飲み物です。
お酒の種類によってアルコールの含まれる量が違います。
商品によっていろいろですが、ビールが5%、ワイン12%、日本酒15%、焼酎25%、ウイスキー40%程度です。
エチルアルコールは水よりも少し軽くて比重が0.8。
ですからお酒の量を重量で知りたいときは、次の式で計算できます。
アルコール量(g)=酒量(ml)×(度数 / 100)×0.8
たとえばビールの度数は5%ですからロング缶1本(500ml)に含まれるアルコールは500×0.05×0.8=20で20gとなります。
日本酒1合に含まれるアルコールもおよそ20g。
日本では「1杯飲む」というとこの20gが目安になります。
整理するとアルコール20gというと、日本酒1合、ビール中瓶(ロング缶)1本、7%酎ハイ350ml 1缶、25%焼酎100mlに相当します。
アルコールは麻酔薬?
アルコールは薬理学的には麻酔薬によく似ています。脳全体に働いて脳神経を徐々に麻痺させていくのです。血中アルコール濃度が高くなるにつれて、進化的に新しい大脳皮質から古い脳の中心部へ向かって麻痺が進みます。アルコールによって大脳皮質の働きが弱まると抑制が取れて、相対的に辺縁系などの本能を司る部分の働きが表面に出てきます。それでおしゃべりになったり感情的になったりするのです。
酔いが進むと小脳に影響が出て千鳥足になります。
記憶を司る海馬に麻痺が進むと記憶ができなくなり、あとで覚えていない「ブラックアウト」が起きます。さらに脳幹にまでアルコールの影響が進むと昏睡状態になり危険です。
嘔吐物による窒息や呼吸中枢の麻痺によって死亡することがあります。
急性アルコール中毒
酔いつぶれた人はひとりにせずだれかが必ず付き添い、吐物で窒息しないように横向きに寝かせます。大声で呼んだり痛みを与えても反応しない、大きないびき、身体が冷たい、呼吸がおかしいなどはたいへん危険な状態です。すぐに救急車を呼びましょう。
お酒で起きるからだの病気
総合病院の通院患者の男性2割、女性1割にアルコール依存症の疑いがあったとの調査があります(※1)。同じスクリーニングテストを一般成人に行った場合に比べて男性で4倍、女性で8倍もの高率です。想像以上にお酒のために身体を壊して通院している人が多いと考えられます。
飲み過ぎると肝臓が悪くなることは有名ですが、そのほかにもがんや生活習慣病など200以上の病気の原因になったり悪化させたりします。
主なものを挙げてみましょう。
- 脂肪肝 肝炎 肝硬変
- 口腔がん 咽頭がん 喉頭がん 食道がん 肝臓がん 大腸がん 女性の乳がん
- 急性膵炎 慢性膵炎
- アルコール心筋症 虚血性心疾患 高血圧 不整脈
- 糖尿病 脂質異常症 高尿酸血症 痛風
- 巨赤芽球性貧血 末梢神経障害 アルコールミオパチー 大腿骨骨頭壊死 骨粗しょう症 インポテンツ 流産 胎児性アルコール症候群
酔ってけがをすることも多く、飲酒による頭部打撲は死亡原因にもなります。
- 慢性硬膜下血腫・脳出血(頭部打撲) 交通事故 転落 溺水 凍死 自殺
※1 Akazawa M et: Prevalence of problematic drinking among outpatients attending general hospitals in Tokyo.日本アルコール薬物医学会雑誌,48(5),300-313,2013
アルコール依存症治療ナビより引用
お酒で起きるこころの病気
アルコールは依存症以外にもうつ病など他の精神疾患の原因になったり悪化させたりします。
「アルコールとうつと自殺は死のトライアングル」ともいわれ、自殺とも密接な関係があります。
飲酒によってうつ病や不安障害の治りが悪くなります。
アルコール問題がある人が他の精神疾患を併発することもあります。
よく併発する精神疾患を挙げてみます。
- うつ病 双極性感情障害 不安障害 他の物質使用障害・行動嗜癖 摂食障害(とくに女性)
家族への影響
アルコール依存症の家庭への影響は深刻です。夫婦げんかなどの家庭内不和、暴言、暴力、DV、虐待、子どもの不登校・非行化等が起きることがあり、家族は傷つき、「ひとりの依存症者の周りには数人の病者が出る」といわれます。子どもへの影響は大きく、飲酒問題や思考のクセ、対人関係の問題が次世代に引き継がれることがあり、世代間伝播と呼ばれます。
家族支援は本人支援と同様に重要です。
社会への影響
アルコールは職場でのパフォーマンスの低下、遅刻、早退、欠勤、アルコール臭、勤務中の飲酒、ミス、事故、失職などに関係します。アルコールは自殺、医療費、認知症、暴力、虐待、犯罪、貧困化、孤独死、飲酒運転など多くの社会問題に関係しています。日本のアルコール関連疾患等の年間死亡者数は約35,000人と推定されています。
アルコールによる社会的損失は年間4兆1483億円と推計され、酒税による税収を大きく上回っています(※2)
※2 尾崎米厚, 樋口進. アルコールの社会的コストの推計.2009.
アルコールの害を社会で減らしていくために
アルコールはからだやこころの健康、家族や社会に大きな影響を与えます。 さまざまな問題の根幹にあるのは不適切な飲酒です。
アルコール依存症者は100万人強いますが、アルコール依存症の治療を受けている人は数万人にすぎません。 生活習慣病などを引き起こす可能性があるリスクの高い飲酒者(1日平均男性40g以上、女性20g以上)はおよそ1000万人いると推定されています。(※1)
一般総合病院通院中の男性の約2割、女性の約1割に依存症の疑いがあるとの調査があります。(※2)仙台市の内科クリニックで調べたところ、男性通院患者では高血圧症の36%、心疾患の36%、肝障害の84%、高脂血症の77%、糖尿病・耐糖能異常の69%、痛風・高尿酸血症の60%にアルコール問題がありました。(※3) アルコール依存症者の 64%が一般医療機関に入院歴があり,最初の受診からアルコール依存症専門治療機関につながるまでに 平均7.4 年を要していたとの調査があります。(※4)さらに、一般企業の男性従業員の10~15%にアルコール依存症の疑いがあったということです。(※5)
多くの人が飲酒が原因でかかりつけ医や総合病院で治療を受けたり職場でチェックの機会があるのですが、適切なアドバイスや治療、支援に結びついていない現状がうかがわれます。医療機関や産業保健の現場で系統的に飲酒問題のチェックを行い、飲酒習慣の指導をしたり必要に応じてアルコールの専門医療機関に紹介することが必要と考えられています。飲酒問題に早期に介入し、適切な介入・治療につなげる方法として推奨されているのが、SBIRT(エスバート)です。
愛知県アルコール健康障害対策推進計画にもこのSBIRTが紹介されています。
※1 2013年 厚労省研究班の調査
※2 Akazawa M et: Prevalence of problematic drinking among
outpatients attending general hospitals in Tokyo.
日本アルコール薬物医学会雑誌,48(5),300-313,2013.
※3 加藤純二 他:仙台市の一内科無床診療所の外来患者のアルコール症に関する統計的研究.
アルコール医療研究, 第6巻4号, 1989
※4 猪野亜朗ら: アルコール性臓器障害への精神科的アプローチ. 日本醫事新報 3768
: 28-32, 1996.
※5 樋口進 : 産業精神保健活動の実際- (1) 早期発見と診断, 治療, 予防アルコール依存症.
産業精神保健ハンドブック, 加藤正明編, pp. 835-848, 中山書店, 東京, 1998.
SBIRT(エスバート)とは
スクリーニング(Screening)、
簡易介入(Brief Intervention)、
専門医療への紹介(Referral to Treatment)
の頭文字をとってSBIRTといいます。
スクリーニング Screening
機会を捉えて広く飲酒習慣に対する簡単なスクリーニングを行って、ハイリスクな人を見つけます。
スクリーニングテストとしてはAUDIT(オーディット)やCAGE(ケイジ)が有名です。
このホームページの「セルフチェック」の項目で簡単にできますので、ぜひお試しください。
https://kariya-hp.or.jp/alcohol/index.html
簡易介入 Brief Intervention
スクリーニングで同定された多量飲酒者や臓器障害がある人でアルコール依存症の疑いが強くなければ、減酒を勧めます。
5~30分の短時間のカウンセリングと1~数回のフォローアップカウンセリングを行います。
カウンセリングは専用の小冊子を使って行います。
まず相談者と医療者が共同で飲酒への目標設定をします。1回の飲酒量を減らす、あるいは休肝日を作るなどです。目標はあまり無理をせずに達成可能なものを考えます。次に成功のための具体的な計画を作ります。「減酒宣言」をする、飲酒の前に食事をするようにする、自宅に「買い置き」しないなど、これも一緒に作戦を考えます。そして次回の面接まで毎日の飲酒量記録をつけていきます。この記録をつけるだけでも効果があります。
スクリーニングと簡易介入は飲酒の害を低減させるためにコストパフォーマンスがよく、長期間にわたって効果が持続することがわかっています。
SBIRT実施のための冊子は、久里浜アルコールセンター開発介入ツール、標準的な健診・保健指導プログラム収載のSBIRTなど、インターネットでも無料で入手できるものがあります。
このほかに簡易介入に教育の要素を加え、グループを対象にも実施可能なHAPPYプログラム(Hizen Alcoholism Prevention Program by Yuzuriha)もあります。
専門医療への紹介 Referral to Treatment
上記の簡易介入はアルコール依存症には対応していません。 飲酒の害が明らかになっても減酒できない人や飲酒関連の問題を繰り返す人は、依存症になっている可能性があります。 アルコール依存症の疑いがあれば専門医療機関への紹介が必要です。
SBIRT(エスバート) + S = SBIRTS(エスバーツ)
SBIRTを実施して、アルコール依存症の人も専門医療にかかることができました。 これで解決?残念ながら、なかなかそうはいきません。アルコール依存症は慢性疾患だからです。長い断酒生活を再飲酒せずに継続していくためには、治療を続けるだけでなく、断酒を応援し、ともに慰め助け合う仲間が必要です。
SBIRTの最後にSをつけたSBIRTSという言葉が、アルコール医療関係者の中で広がっています。最後のSはSelf-help group(自助グループ)の頭文字です。アルコール依存症の疑いがある人には医療機関を紹介するだけではなく、自助グループを紹介することが必要なのです。
専門医療機関ではさまざまな機会を捉えて自助グループへの紹介を行っています。電話で自助グループメンバーと患者さん・家族と直接会話して自助グループを紹介してもらう取り組みも広がってきています。今後は専門医療機関だけでなく、かかりつけ医や一般病院、相談現場や地域介護ネットワークからも自助グループへつなぐ取り組みを行っていくことが期待されています。