愛知県依存症治療拠点機関(アルコール健康障害)啓発サイト

医療法人
成精会
刈谷病院

家族への支援

家族への支援について

アルコール依存症は本人が病気であることを自覚しにくい病気です。そのため、家族への支援が大切になってきます。 アルコール問題を持つ本人が治療に結びつくために家族ができることについて学びましょう。

アルコール問題のある方と関わっていて口論したことがない、という方はいらっしゃるでしょうか? そんな方は少ないと思います。つい、口を出してしまいたくなります。 そして、家族はアルコール問題に巻き込まれていきます。 決して家族が悪いのではありません。  

今の苦しみから抜け出すために、アルコール依存症という病気を正しく知り、効果的な対応をしていきましょう。
家族の態度が変わると、本人の態度も変わります。 本人を治療に繋げ、家族自身も回復できるように、対処方法をご紹介します。

まず、家族が支援を受けることが重要です

 アルコール依存症の治療の項で、「家族への影響が大きいことから、家族相談など家族が必要な支援を受けることも非常に重要です。」と述べましたが、 これは、依存症が周囲、とりわけ身近な家族に影響を及ぼす疾患だからです。依存症は感染症のように細菌やウイルスなどの物理的な刺激が「うつる」ことはありません。しかし、精神的な影響という意味では一種の「伝染病」と考えた方がわかりやすい面があります。依存症の本人が知らず知らずのうちに病的な心理状態に陥るのと同様、家族も依存症本人の言動に対応するうちに、自分でも自覚なく通常ではない心理状態になってしまうのです。これは家族が弱いためでもなんでもありません。依存症という「異常な状態」に対する「正常な反応」として、病的な心理状態が引き起こされるのが当たり前なのです(極端な表現をすれば、「異常な状態」に対して「以前と同様に正常にふるまう」ことができ続けたら、その方がまれであると言えるでしょう)。

「アルコール依存症の治療」はここをクリック


例えば・・・

夫/妻の飲酒に悩む配偶者が、うつ状態となることもあるでしょう。依存症の治療が軌道に乗ればよいのですが、それまで待つのは現実的ではありません。家族が心身の健康を少しでも早く取り戻すために、支援は必須と言えます。また、依存症の家族は問題を周囲に相談しにくいことからも、非常に孤立しやすいのです。孤立からの解放という面からも、支援は欠かせません。

家族への支援が依存症の治療につながる第一歩となります

 その理由の1つ目は、依存症は「本人よりも先にまず家族が困る病気」だからです。冗談のようですが、「家の前のゴミ理論」というものがあります。自宅の前に、誰かがゴミを捨てていくとしましょう。本来なら、そのゴミを片付けるのは捨てた当事者であるべきです。しかし、当事者に自覚が薄い場合、当座の処置としてゴミは誰かが対処せねばなりません。誤解がないよう繰り返しますが最後に責任をとるべきは当事者ですが、最初は真っ先に困った人が動かざるを得ません。ゴミを捨てるところまでいかなくても、どうすればいいか考えるだけでも、「困った人がまず動く」ことが解決の第一歩になるのです。実際に、支援機関への相談に本人ではなく家族が最初に訪れ、そこから本人の来談につながるケースはよくみられます。

 理由の2つ目は、家族の協力があった方が依存症の治療がスムーズである、というものです。これは例えば糖尿病などの生活習慣病に似ています。糖尿病の本人の食生活に対し家族がなんの関心も持たない場合と、一緒に栄養指導などを受けたりした場合を考えてみればどちらの経過がよさそうかは明らかです。「どうして今まで散々苦しめられたのに、この上治療の手伝いまでしないといけないのか!」という思いはとても自然なものですが、家族の今の苦痛を解消するためには、やはり本人の治療と回復が避けて通れません。本人のためだけでなく、最後に家族自身にも成果が戻ってくる努力、と信じていただきたいのです。

CRAFT(クラフト)
-アルコール依存症者 家族が回復するための対処方法-

CRAFTとはCommunity Reinforcement And Family Training(コミュニティ強化法と家族トレーニング)の頭文字をつなげた方法です。

CRAFTは認知行動療法という心理療法の技法にもとづいて行われ、その目的としては大きく分けて3つあります。

①家族が楽に暮らせるようになるため
②本人に病院に受診してもらうため
③本人の飲酒を減らすため


コミュニティ強化法と家族トレーニングと言っても、家族が持っていない力を使用するわけではなく「すでに持ち合わせていても、効果的に使えていない力」を使えるようにしていくものとなります。

今後、家族がどのように関わり、家族や依存症者の生活を豊かにしていくためには、どうすればよいか方法を考えていきましょう。

主な内容としては6つあります。

①安全の確保

暴力(殴る・蹴る、物を投げる・壊す、大声をあげて威嚇する、暴言を吐く、脅す等がある場合は、家族の安心・安全を守るため、対策をとっておきましょう。安全対策、これは一番大切なことです。具体的な対策としては、どういった会話や状態になると暴力をふるってしまいやすいか、あらかじめ検証しておくことが役立ちます。興奮しやすい状態を避ける事で、暴力に発展する事を防ぐ事ができます。
暴力に発展しそうな危険を察知したら、その場を離れてトイレや自分の部屋に行って距離を取りましょう。そして、いざというときは、迷わず逃げましょう。逃げる事も想定し、あらかじめ避難先(親族や友人の家、ホテル、漫画喫茶、カラオケボックス)を考えておく事が重要となってきます。2、3日は泊まれるような準備と貴重品をすぐに持ち出せるようまとめておくことも大切です。
もし逃げた後に帰りたくない場合は、警察やDVの相談窓口に相談すれば、一時保護をお願いすることもできます。

 そして実際に暴力や、身の危険を感じたら、ためらわず警察を呼びましょう。警察に保護される際、「飲酒の問題があるので、保健所に連絡もお願いします」と伝える事によって、アルコール問題への介入のきっかけもできます。警察が到着したときに暴力が落ち着いていたとしても、問題があることを知ってもらうことで、今後対応してもらいやすくなります。
飲酒に暴力が絡みやすいのは、酔いによって理性がコントロールできなくなることも関係しており、暴力を振るう相手に、1人で対応するのは非常に危険です。すぐに保健所、依存症専門医療機関、精神保健福祉センター等に相談し一緒に考えるようにしましょう。
暴力を繰り返し何度も受けていると、自分に何か原因があるのではと考える方がいらっしゃいますが、暴力はする側に問題があり、どんな理由があろうと、暴力を受けていい理由にはなりません。

②コミュニケーションを変える

 出来そうなことから練習してポジティブなコミュニケーションに変えてみましょう。受け入れやすい話し方で人間関係が良くなります。褒められる、理解してくれるという事は、相手にとって嬉しいことです。

コミュニケーションのコツ(プラスの面に意識を向ける)


「わたし」を主語にした言い方をする

「自分がどう感じているか」「自分が何を望んでいるか」を言葉にします。

例えば
今日は飲まずに帰ってきなよ

飲まずに帰ってきてくれると嬉しい。

肯定的な言い方をする

言い方を変えることで解決の糸口をつかむこともできます。

例えば
このまま飲み続けていたら、肝硬変になって早く死ぬよ。

酒を止めれば肝硬変になるリスクはかなり減りますよ。

簡潔に言う

何を言いたいかを明確にし、一度に一つことを言うのがコツです。

例えば
毎日毎日飲んでばっかり!私の気持ち考えたことある?自分がどれだけ迷惑かけているか分かってる?そりゃ友達も離れていくし、働けもしないだろうよ。ねぇ。なんか言ったら?

例えば
いつもいつも飲んでばかりで、他にする事あるでしょ。イライラするし家事も何もしないし、仕事だって休んでばかり、一体全体何を考えてるんだか。今後どうしていきたいの。

休んでばかりだと、今後、身体も心もどうなっていくのか私は心配して るわ。

具体的な行動に言及する

曖昧な言い方では望みは実現しません。具体的な行動に注意を向けましょう。

例えば
仕事から帰ってきたら家のことも何もせずに寝ているだけじゃない。父親らしいことしたら?

仕事から帰って来て、時間がある時は一緒にご飯でも作りたいな。

感情に名前をつける

今わいている気持ちが、相手への嫌悪・激怒・絶望・軽蔑など非常に強いマイナスの感情だとしたら、それを相手に投げつけることは、事態の改善に繋がりません。気持ちを整理し自分の中にある感情に名前をつけてみましょう。相手を否定する気持ちではなく「心配」「不安」「悲しみ」など自分の感情であれば相手に伝わりやすくなります。

例えば
見ている方がストレスになるわ。

飲まないでいてくれると、私も嬉しい。

責任を一部受け入れる

事態の責任の大半が相手にあるとしても、少しだけ自分も責任を分かち合う言葉を入れるのは有効です。「あなたを責めているのではない」というメッセージになり、相手が頑なになるのを防げます。

例えば
今日も病院に行かなかったのね。行くって言っていたじゃない。あなたは何を考えているのよ。

今日は病院の受診日だったわね。私も一緒に行かないか声をかければ良 かったわ。

思いやりのある発言をする

この場合の思いやりとは「相手の立場に立ってみる」ことです。相手の側から考えた一言を添えることで、相手は守りに入らず話を聞くことができます。

例えば
どうしていつもお酒に逃げるの。

嫌な事があると忘れたくなって飲みたくなってしまうわよね。
ただ、こ のままだとどうなっていくか私も不安だわ。

支援を申し出る

相手を責める言い方ではなく、一緒に問題を解決することを基本にした言い方をします。

例えば
自分の事しか考えていなくて、迷惑ばかりをかけているわよね。

家族全員、あなたのお酒の問題には心配しているのよ。
何かできる事が ないか一緒に考えてみない。


③望ましい行動を増やしましょう

本人が楽しんでいること、それをしている時は飲酒していないこと、あなたも楽しめる行動を増やすために、例えば以前は一緒にやっていたテニスをしようとか、日帰りの旅行に行く等本人が喜び、すぐにあげられる物、あなたが快くあげることができるものを、しらふの時にご褒美としてあげましょう。
飲まない本人と過ごすことが、どれほど嬉しいものか伝えます。

例えば
私ばっかり損しているんだから、あなたも我慢しなさいよ。

楽しそうな姿を見ると、私も嬉しいし気持ちが落ち着くな。

④望ましくない行動を減らしましょう

本人のためを思って行動したことが、飲酒問題を悪化させてしまう結末になることがあります(イネーブリングといいます)。世話をやきすぎると、相手は「このままでいいか」と開き直ります。飲酒している相手をかばえば、飲酒を支持していることになります。

例えば
お酒を買ってこいとうるさいため、本人の代わりにお酒を買いに行く。

お酒を買いに行く事をやめる。


「イネイブリング」はここをクリック



⑤あなた自身の生活を豊かにしましょう

問題を解決させるためには、あなた自身が健康で落ち着いた状態でいることが大切です。これまで何とかしようとずっとされてきた努力は評価されるべきです。あなた自身の生活がいまより豊かになることは大切ですし、そうする事に何の負い目を感じる必要もありません。

⑥本人に治療を勧める

しらふで楽しい時間を一緒に過ごすことは、本人の断酒意欲を刺激します。治療に興味が出てきたらチャンスです。このチャンスを逃さないようにしましょう。 事前に治療が受けられる準備をしておきます(医療機関・自助グループ)。 タイミングが大切です。

例えば
・本人が飲酒問題を引き起こして後悔している時
・本人が自分の飲酒問題に知人や職場の人などに予想外のことを言われ動揺 している時
・家族が関わり方を学び、変化したことに対して本人が「どうして?」と聞いてきた時

イネイブリング(Enabling)
―望ましくない行動(家族・支援者が病気を進行させてしまう行動)―


イネイブリングという言葉は聞いた事があるでしょうか。
馴染みがある方は少ないと思います。
イネイブリングとは(家族・支援者が)アルコール依存症者に飲み続ける事を可能にしてしまう行為の事を言います。

周囲が良いと思ってすることがイネイブリングになりがちです。 例えば…

・本人に代わって迷惑をかけた相手に謝罪をする

本人が落ち込む事も嫌な思いもする事なく、飲酒する事が継続できてしまいます

・本人の汚してしまった部屋を掃除してしまう

起きた時には飲んでいた記憶もなく、部屋がきれいになっているので、心地よく飲める状態が
出来上がってしまっています

・本人のお酒を黙って捨てる/

本人のお酒を捨てたとしても、工夫してお酒を飲んでしまいます

・散乱した酒瓶を隠す、使い道のよくわからないお金を要求のままに渡す

お酒を隠しても、本人は探し出すか購入してしまいます。
お金を要求のままにお渡しすると、お酒を購入してしまい、結果的に飲酒問題は変わらず
家族が疲弊します

・職場に病欠連絡を代わって行ったり、言い訳作りに協力したりする
/
本人が病気であることを否認する手助けとなってしまいます


上記のようにイネイブリングを続けていると、家族の出費や労力が大きくなり、家族が疲れていくのにも関わらず、本人の飲酒問題は悪化していってしまいます。
このように家族や第三者の責任感、義務感によって、結果的に当人の問題行動を維持させているイネイブリングはアディクションの環境要因といえます。
典型的パターンは、アルコール依存症の本人とその共依存配偶者のペアです。家族や支援者はアルコール依存者の問題行動を「尻拭い」するような行動をとってしまいます。イネイブリングは本人の心理的成長を妨害し、また共依存者の陰性感情を増大させます。こういった共依存者は、アルコール依存患者の被害者ではありますが、同時に飲酒を手助けしてしまっている事もあります。
/


いかがでしたでしょうか?
このイネイブリングの行動そのものは大切な人や家族や自分を守るために、良かれと思ってやっている行動です。家族や支援者の中には「こういう事をやっていたから飲酒量が増えていった。私のせいなのだ」と落ち込む方がいらっしゃいます。しかし、落ち込む必要は全くありませんし、今までの行動を間違いだと責める必要もありません。むしろ優しくて、相手を思いやるがゆえにやってしまう行動だからです。そのため、家族や支援者など依存症者本人の事を大切に感じている人がイネイブリングしてしまう事が多いのです。
イネイブリングというものは、良かれと思って、問題を解決するために知らず知らずのうちに陥ってしまう罠のようなものなのです。

イネイブリングをやめるという対応方法は、一般的な価値基準からすると「優しくない夫」「出来の悪い妻」「責任感のない親」等と言われる事があるかもしれません。 新しいやり方を進める時には、事前に力になってくれそうな親族に説明をしたり、一緒に医療機関に行き説明をしてもらう事も有効です。

またイネイブリングを止めると、一時的に本人の飲酒量が増えたり、攻撃的な態度になることがあります。むしろこれはイネイブリングをやめる効果が出始めている証とも言えます。
重要なのは「一時的」なので、必ず続けてください。
その代わり暴力の危険を感じた時には身を守る方法を、すぐに検討してください。

―主な相談先―

悪循環から抜け出すための秘訣


気になることがあれば、まずは相談を

家族それぞれの状況の中で、実行可能なこと、効果的と思われることを家族と共に見つけ出し行動に移せるため、機会があればCRAFTの話だけでも聞いてみることをお勧めいたします。
また、ここには飲酒問題のある方との関わり方について要点だけを載せています。具体的にど
うすれば良いかは、アルコール依存症の専門医療機関や相談機関などで家族教室を開催しているところもありますし、個別対応をしているところもあります。
幸いにも家族を支援する方法は、以前に比べれば近年非常に進歩しています。またその受け皿も広がりを見せています。家族だけで悩むことなく、気軽にしかるべき機関に相談されることが、あとから振り返った時、もつれきった問題へのはじめの糸口になることがあります。

どこに相談したら良いかは、このホームページの「相談窓口と医療機関」の項目でご確認ください。




「相談窓口と医療機関」はここをクリック

TOP